ここ数年で耳にする機会が増えた「メタバース」という言葉。メタバースとは一体どのようなものなんかよく分からないという人や、普通のゲームやSNSと何が違うの?と思っている人も多いでしょう。ここでは、「メタバースとは何か?」といった解説をはじめ、メタバースを使ってできることや、具体的な活用事例などを紹介していきます。
メタバースとは
メタバース(metaverse)とは、インターネット上に構築された三次元の仮想空間です。メタバースのユーザーは、「アバター」と呼ばれる自分自身の分身を介してメタバース内に入り、他のユーザーと交流したり、商品やサービスの売買をしたりと、現実世界と同様の体験をすることができます。
「メタバース」という概念や言葉自体は30年以上前から存在していましたが、2021年にFacebook社が「メタ・プラットフォームズ(Meta)」へと社名を変更し、同社の主力事業としてメタバースに注力していくと発表したことにより、世界中から大きな注目を浴びるきっかけとなりました。近年、「Fortnite(フォートナイト)」などのゲーム分野や、「VRChat」といったソーシャルVRアプリなどが人気を集めているほか、ビジネス分野でもメタバースの活用に乗り出す企業も増えており、メタバースは私たちの生活の中でも身近なものになりつつあります。
メタバースとVR(仮想現実)の違い
「メタバース」と混同しやすい言葉として、「VR(仮想現実)」があります。両者の違いが実はよく分かっていないという人も多いのではないでしょうか。
メタバースとVRの違いを簡単に説明すると、メタバースは「三次元の仮想空間」そのものを指すのに対し、VRは「仮想空間を体験するためのツール」であるという点です。つまり、「メタバースという仮想空間をよりリアルに体感したり、没入感を与えたりする手段がVRである」と言えるでしょう。
「メタバースを始めよう」と考えると、VRゴーグルやヘッドセットを利用するイメージが先行し、専用のデバイスを入手しないといけないと考える人もいますが、そのようなVR機器はメタバースを体験するために必須のものではありません。VR機器はメタバースの世界観をよりリアルに体感し、没入感を楽しむためのオプションであるため、VR機器を使わなくても様々な方法でメタバースを体験することが可能です。
メタバースの定義
上記で「メタバース」と「VR(仮想現実)」の違いについて説明しましたが、そうすると一般的に使われる「仮想空間」と「メタバース」の違いは一体何だろう?という疑問が浮かんできます。
仮想空間を「メタバースたらしめる」定義として、元アマゾンスタジオ戦略部門のグローバル統括責任者であり、投資家のマシュー・ボールは、メタバースが備えるべき条件を以下の7つに定義しています。
- 永続的である:インターネット上の仮想空間であるメタバースは、永続的である必要があります。既存のゲームの世界などとは違い、利用するプレイヤーの意思や行動に関わらず、終了したり一時停止・リセットなどはされたりしないという条件が必要とされます。
- 同期的でライブ性がある:メタバースは、ライブ性がある必要があります。メタバースで起こるイベントや体験は、実生活と同様に、すべてのユーザーにとって一貫してリアルタイムで存在する生きた体験であるべきです。
- 同時接続ユーザーに上限がない:現実世界と同様に、メタバースに同時接続するユーザーには上限がないことが条件となります。それにより、誰もがメタバースの一部となり、特定のイベントや活動に主体性を持って参加することができるようになります。
- 十分な経済性がある:個人や企業がメタバース上での価値を生み出し、報酬を得ることができるという経済性も重要な要素です。
- 現実世界と仮想世界の境界がない:メタバース内での体験は、メタバース空間と現実世界の境界をまたぐものであるというのも重要な条件です。メタバースのサービスは、PCやスマートフォンなど、様々なデバイスから体験できますが、VRゴーグルやヘッドセットといったより没入感を高められるデバイスに対応していることも条件のひとつです。
- 相互運用性がある:メタバース内のデータやデジタルアイテム、コンテンツや資産は、相互運用性があるべきとされています。基本的に、現在のメタバースでの経済活動は、各メタバースのプラットフォーム独自の通貨やIDなどが必要とされるクローズドな空間となっています。将来的には、異なるメタバースのプラットフォーム間でも相互運用できるようになるべきであると指摘しています。
- 企業・個人によるコンテンツや体験の提供がある:幅広い企業や個人の貢献により、メタバースのユーザーが増えていく仕組みが存在しているのも、メタバースの条件に重要なポイントです。
また、日本バーチャルリアリティ学会は、2011年に「メタバースの4要件」として
- 空間性
- 自己同一性
- 大規模同時接続性
- 創造性
を挙げています。
さらに、「ITエンジニア本大賞2023」を受賞した書籍「メタバース進化論」では、上記の4要件に加えて
- 経済性
- アクセス性
- 没入性
の3つの要件を加えた7要件を満たす仮想空間をメタバースであると定義しました。
このように、進化途中であるメタバースは、その定義が曖昧であったり、メタバースを語る人によって定義が変わってきたりしますが、上記の要件を満たすものが「メタバース」と呼ばれる仮想空間ということになります。また、「メタバース」を固有のサービス名と混同している人もいますが、そうではないということが分かるかと思います。
メタバースでできること
では、実際にメタバースを使うと、どのような体験ができるようになるのでしょうか?メタバースを利用したサービスには様々なものがありますが、現在もSNSやゲームといった分野をはじめ、あらゆる分野でメタバースを利用したサービスが増えてきています。
SNS
多くのユーザーと交流することのできるSNSは、今や多くの人が様々なサービスを利用しており、日々の生活の中で無くてはならないものになっている人もいます。アバターを介して三次元の空間で他ユーザーと交流のできるメタバース型SNSは、より現実世界と近いコミュニケーションが取れる点が魅力です。
VRChat(ブイアールチャット)
2017年にリリースされた「VRChat(ブイアールチャット)」は、ユーザーがオリジナルのアバターを作成し、他ユーザーと交流したりゲームをしたりして楽しめるほか、ユーザーが「ワールド」と呼ばれる独自の世界を仮想空間内に創造することができるのが大きな特徴です。美しい景観を満喫したり、ゲームや謎解きなどを楽しめたりと、あらゆるジャンルのワールドでの滞在を楽しめるほか、自分自身のワールドをアップロードできるのも大きな魅力です。自分が作成したワールドを全世界に公開したり、友達を招いて集まったりと、様々な楽しみ方をして過ごすことができます。
さらに、VRChatでは日々様々なイベントが開催されており、多くの個人や企業も出店する大規模なイベントが行われることもあります。VRChatで使用するアバターやアイテム、リアル商品(洋服、PC、飲食物など)を販売・購入できるイベント「バーチャルマーケット」には、世界中から100万人以上が来場し、仮想空間上のマーケットイベントにおけるブースの最多数としてギネス世界記録にも認定されています。
Cluster(クラスター)
「Cluster(クラスター)」は、日本で開発されたSNS型メタバースアプリで、国内最大ユーザー数を誇っています。スマートフォンやPC、VR機器など様々な環境からアクセスでき、アバターを介して他のユーザーと交流したり、イベントに参加したりして楽しむことができます。多くの企業や自治体などと連携し、バーチャル観光地や企業のイベント、音楽ライブなども開催されているのも特徴です。
ゲーム
ゲーム分野と相性の良いメタバースは、早くからメタバースを利用したサービスも多く、若年層を中心にユーザー数も急増しています。
Fortnite(フォートナイト)
Epic Gamesが2017年にリリースした「Fortnite(フォートナイト)」は、パソコンや家庭用ゲーム機、スマホなど様々なプラットフォームで利用できるオンラインゲームです。世界中で4億人を超えるユーザーを抱えるフォートナイトは、先述したメタバースの7つの条件を兼ね備えており、メタバースを代表するプラットフォームとも言われています。
フォートナイトは、100人のプレイヤーが一斉に巨大な島に上陸し、武器やアイテムを収集しながらバトルを行うというのが主な内容です。一人で戦うソロプレイをはじめ、ペアを組んで戦う「デュオ」、4人1組のチームで戦う「スクワッド」モードから選んでプレイすることができ、一人でも友達とでも遊ぶことができます。
また、最も多くの人がプレイする「Battle Royale(バトルロイヤル)」モードのほか、自分でオリジナルの島をデザインしてプレイできる「Creative(クリエイティブ)」モード、最大4人のプレイヤーが協力し、モンスターと戦ったり拠点を防御したりする「Save the World(世界を救え)」モードなどがあり、様々な楽しみ方をすることが可能です。
あつまれどうぶつの森
「あつ森」の愛称で知られる任天堂のゲーム「あつまれどうぶつの森」も、メタバースの事例としてよく例に挙げられることがあります。メタバースという概念が想像しにくい人も、「インターネット上の3次元空間で多数のユーザーがアバターを介して交流している」という点から見ると、メタバース的要素を持つあつまれどうぶつの森は、メタバースがどのようなものかという点を理解するのに役立ちます。とはいえ、あつまれどうぶつの森は、上述したメタバースの条件に該当しない部分もあるため、狭義の意味でのメタバースと言えるでしょう。
Roblox(ロブロックス)
「Roblox(ロブロックス)」は、世界中のユーザーが作ったゲームをプレイしたり、自分でオリジナルのゲームを作ったりすることのできるゲーミングプラットフォームです。1日のアクティブユーザー数は6,550万人を超え(2023年6月時点)、あらゆるジャンルのゲームが公開されています。
また、ロブロックスは、ゲームをプレイするというだけでなく、プログラミング学習ができるという側面も持ち合わせています。ロブロックスが無料で公開しているプログラム「Roblox Studio」を使い、難しい知識なしでオリジナルのゲームを作れるほか、プログラミング言語を利用した本格的なゲームの作成も可能です。そのため、プログラミング教育が必須となっている教育業界でも、小中学生に人気のロブロックスが教材として使用されている事例もあります。
メタバースの参入事例
世界的に注目を浴びるメタバースには、世界はもちろん、日本国内のあらゆる分野の企業も参入しています。企業のイベントやコラボレーション企画、展示会などを既存のメタバース空間で展開するという事例が一般的ですが、企業独自のメタバースプラットフォームを開発し、メタバース事業に本格的に参入している事例も見受けられます。
ANA
ANAグループは、旅に特化したバーチャルトラベルプラットフォーム「ANA GranWhale」を開発・運営しています。
ANA GranWhaleは「V-TRIP(旅のテーマパーク空間)」と「Skyモール(ショッピング空間)」の2種類のサービスで構成されており、自身のアバターを介して気軽に旅行やショッピングを楽しむことができます。
V-TRIPでは、日本各地の有名観光地をはじめとして、世界各国を旅することができます。ガイドの説明を受けながら歴史的建造物やパノラマの絶景に触れる体験をすることができるほか、季節のイベントなど多数のコンテンツが用意されています。Skyモールはリアルとバーチャルが融合したショッピングモールとなっており、ここでしか出会えない限定商品を購入したり、コンテンツに触れて楽しんだりすることが可能です。
三越伊勢丹
三越伊勢丹は、独自の仮想都市空間プラットフォーム「REV WORLDS(レヴワールズ)」を構築しています。「仮想新宿」の都市空間に伊勢丹新宿店が出店しており、来場者はアバターとなってショッピングを楽しむことができるようになっています。仮想店舗内には実店舗で販売されている商品が並び、ファッションやコスメ、ギフトなど様々なジャンルのショッピングや、デパ地下での買い物も体験することが可能です。
仮想店舗内の商品はそのままオンラインストアで購入することもできるため、友達とテキストチャットやボイスチャットでコミュニケーションをしながらお買い物をするといった使い方もできるのが特徴です。
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