Web3.0の普及とともに耳にすることが増えた「DAO (分散型自律組織)」は、Web3.0という概念を理解するうえで欠かせないキーワードのひとつです。ここでは、「DAO」の概念のほか、DAO が生まれた背景やその仕組み、DAO が活用されている事例などを解説します。
DAO とは- 分散型自律組織
「DAO」は、「Decentralized Autonomous Organization」の頭文字を取ったもので、日本語では「分散型自律組織」と呼称されるのが一般的です。DAO とは、簡単に言うと「特定の管理者や所有者が存在せず、メンバーの投票によって組織の方向性を決定したりプロジェクトを進めたりすることのできる組織」のことを指します。
株式会社などをはじめとする企業や組織は、階層構造となっているのが一般的です。そのような組織は、経営者や株式を保有する株主などに意思決定の権利が集中する「中央集権型」のトップダウンマネジメントなっており、労働者はその決定に従うという仕組みになっています。
一方DAO では、組織内に階層はなく、参加者は対等な立場で意思決定を行えるようになっており、組織運営の決定方法などに対する情報の透明性が高い状態を維持できるのが特徴です。
DAO の仕組み
DAOでは、メンバーに割り当てられた「ガバナンストークン」と呼ばれる投票権を行使することによって、組織の意思決定が行われます。このガバナンストークンは、株式会社における「議決権付き株券」と同じものと考えると理解しやすいと思います。
DAOにおける意思決定の仕組みは以下のようになっています。
- 組織の議題や方向性に対して、ガバナンストークンを保有するメンバーが投票をする
- 投票結果によって組織の方向性や議題の結論が決定される
- スマートコントラクト機能(一定のルールによって自動的に実行されるプログラム)により、ブロックチェーンに記録される
DAOのメリット
DAOのメリットには、以下のようなものがあります。
- 民主的な運営が実現される
DAOの一番の特徴は、リーダーやトップに意思決定の権利が集中しておらず、参加者全員が組織運営に参加できるという点です。そのため、トップダウン型のマネジメントではなく、民主的に組織運営ができるというメリットがあります。
- 情報の透明性が高い
DAOでは、メンバーが投票した情報は自動的にブロックチェーンに記録されるため、情報の改ざんや人為的な不正などが難しいというのも特徴です。そのため、公開される情報の透明性が高く、公平性が保たれるというメリットがあります。
- 年齢や国籍を問わず誰でも意思決定に参加できる
従来の組織の場合、その意思決定の場に参加するためには、その組織に属して雇用契約をする必要がありました。一方、DAOでのプロジェクトなどに関する意思決定に参加するためには、ガバナンストークンを保有していれば誰でも自分の意見を反映させることができます。そのため、国籍や年齢、性別やスキルといった制限に縛られることなく、国内・海外問わずDAOへのプロジェクト運営などに関わることが可能です。
- 匿名性が高い
上述した特徴とやや重複しますが、DAOはインターネットでのアクセスができればだれでも参加できるうえ、匿名での参加が許可されている組織が多いのも特徴です。
従来の組織では、本名や住所などを管理者に登録するする必要がありますが、DAOではそのような必要がなく匿名性が高いため、自由な活動ができるというメリットもあります。
- コストが抑えられる
従来の株式会社における株式発行と同じく、ガバナンストークンはDAOの資金調達としての側面も持ち合わせています。
通常、株式発行には煩雑な手続きやコストがかかってしまいます。また、金融機関から資金を借り入れする場合にも、審査に時間がかかってしまうというデメリットもあります。一方、ガバナンストークン発行による資金調達はスマートコントラクトを通して行われるため、低コストで効率的な資金調達が実現できるというメリットもあります。
DAOに関連する技術
DAOが登場し、浸透した背景には、Web3.0の発展ともに新たに登場した技術の存在があります。DAOの存在に欠かせない技術には、以下のようなものがあります。
- ブロックチェーン
ブロックチェーンとは、一言で言うと「暗号技術を用いて取引のデータを分散的に処理・記録する技術」のことです。「ブロック」と呼ばれる単位のデジタルデータを鎖のように連続的に繋げていく構造をしているため、「ブロックチェーン」という名前が付けられており、ビットコインをはじめとする暗号資産(仮想通貨)の誕生とともに生み出された技術です。
ブロックチェーンには以下のような特徴があります。
- データの改ざんが困難
ブロックチェーンでは、一つの単位(ブロック)の中に取引記録のほかに、連結する各ブロックの取引記録などのデータが含まれています。そのため、あるブロックの情報(取引記録)などを改ざんするためには、そのブロック以降のすべてのブロックのデータも改ざんする必要があります。このことから、データの改ざんが非常に困難であり、事実上改ざんは不可能であるため、安全性の高さが大きなメリットのひとつです。
DAOでのガバナンストークンによる投票結果は、自動的にブロックチェーンに記録されます。透明性が高く、投票結果に人為的な介入などの恐れがないため、DAOの運営には必要不可欠な技術のうちのひとつです。 - システムダウンしにくい
ブロックチェーンには、システムダウンしにくいという特徴もあります。これは、ブロックチェーンのデータ管理を担う「P2P(ピアツーピア)」という通信システムの仕組みによるものです。
P2P(ピアツーピア)とは、特定の管理者が管理するサーバーにデータを集約する既存のシステムとは異なり、「ノード」と呼ばれる不特定多数の端末(PCやスマートフォンなど)が直接データをやり取りできる仕組みです。このP2Pネットワークを活用することにより、一部のノードでシステム障害が発生しても、その他の各ノードにもデータの処理や管理が分散されているため、全体的なシステムダウンが起こりにくく、安定した環境で取引を行えるのが特徴です。
- スマートコントラクト
スマートコントラクトとは、一定のルールによって自動的に実行されるプログラムで、厳密に言うとブロックチェーン上に実装されている機能の名称です。
従来の取引や契約では第三者による介入が必要ですが、ブロックチェーンに保存されたスマートコントラクト機能は、設定された所定のルールが達成された際に決められた処理が自動的に実行されるため、「取引や契約の実行がスピーディーに進む」「第三者を介さずに契約が実行されるため、情報の改ざんや人為的なミスが起こらない」といったメリットを挙げることができます。
DAO の歴史と背景
ここまで、DAOの概念やその仕組みやメリット、実装されている技術的などを説明してきましたが、近年になってこのDAOという組織が注目され広まった背景には、以下のようなものがあります。
- Defi (ディーファイ)の発展
DAOが浸透した背景には「Defi」の発展が関係しています。
Defi (ディーファイ)はDecentralized Financeの略称で、「分散型金融」とも呼ばれます。このDefiとは、ブロックチェーン技術を核とした分散型(=非中央集権型)の金融サービスの仕組みを指します。従来の金融サービスは、銀行や証券会社または証券取引所といった管理者を介して取引されるのが通常ですが、Defiにおいてはそのような中央集権的な管理者が存在せず、ユーザー同士が直接取引し管理し合う仕組みになっています。
このDefiにおける組織の仕組みがDAOとなっているため、Defiの発展とともにDAOも浸透するようになったという背景があります。
- NFTやメタバースとの関連
Defiと同様に、DAOはNFTやメタバースとも深い関係があります。
NFTとは、“Non-Fungible Token”=非代替性トークン(代替が不可能なトークン)の略称で、「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタル資産」と説明されるものです。
DAOは、アート作品、ゲーム、マンガ、音楽などをはじめとするNFTの売買をする人々が集まる場として発展してきたという背景があります。NFTの収集や投資のためのDAOや、共同購入のためのDAOといった組織があり、NFTの活用方法や値付け、売却したNFTで調達した資金の使い道などの議題がDAOメンバーの投票によって決定されています。
また、メタバースとは、インターネット上に構築された三次元の仮想空間のことを指します。メタバースには、ゲームやSNSなど、様々な分野があり、それらは自律的なDAOによって運営され、DAOメンバーの投票によってメタバースの方向性が決定づけられています。
DAOの種類
様々な特徴やメリットを持つDAOは、その特性によって以下の3種類に分類することができます。
- Autonomous DAO(自律的DAO)
Autonomousとは「自律的」という意味があります。自律的DAOとは、中央集権的な管理者が存在せず、スマートコントラクトにより自律的に運営される組織のことです。ここまで解説してきたDAOの定義に即しており、一般的にイメージされるDAOの状態に最も近いDAOですが、現実的には組織の立ち上げ時期からAutonomous DAOの形態にするのは難しいため、最終的に目指すべき姿として掲げられる状態のDAOでもあります。
- Bureaucratic DAO(官僚主義的DAO)
Bureaucraticとは「官僚的な」という意味を持ちます。官僚主義的DAOとは、複数の官僚的存在(リーダー)が存在し、意思決定をしている状態のDAOです。
意思決定者が制限されているため、プロジェクトの進行や運営に関する方向性の決定は迅速に進みますが、組織内に混乱が生じやすいという問題があります。
- CEO DAO(最高責任者が存在するDAO)
CEOとは、周知の通り「最高経営責任者」という意味があります。CEO DAOとは、意思決定者が一人だけの状態のDAOを指します。
ある特定の目標を掲げたDAOを立ち上げる際、最初から自律的DAOを運営するのは難しいため、「CEO DAO」や「Bureaucratic DAO」の段階を経て最終的に真のDAOと言える「Autonomous DAO」を目指している組織も多くあります。
DAOの事例
DAOは、世界中に数千もの数があると言われています。それら数多くのDAOは、ブロックチェーン系に投資系、コミュニティ系やメタバース系など、様々な系統・領域に分かれており、各組織のメンバーによって運営されています。
上記のDAOカオスマップは2021年に海外で作成されたものですが、このように国内外には多様な領域のDAOが存在しています。これらの中でも、規模が大きく有名なDAOとしては以下のようなものがあります。
- BitDAO
BitDAOは、ドバイを拠点とする暗号資産取引所「Bybit」が主導するDAOです。新たなDeFi(分散型金融)プロジェクトを支援するために設立され、過去にはNFTアート収集を目的としたDAOに高額な出資をしたことで注目を集めました。
また、BitDAOは自身のガバナンストークンである独自のトークン「BIT」を発行しており、投資家や企業からも注目を集めています。
- CityDAO
CityDAOは、ブロックチェーン上にデジタルの都市を作ることを目的としているDAOです。実際の現実世界にある土地とブロックチェーン上の土地がリンクしており、土地の証明書(Land NFT)が販売されているのが特徴です。また、土地のNFTのほか、市民NFT(Citizen NFT)が発行されており、CityDAOのガバナンストークンの役目も果たしています。CityDAOは、実際にアメリカのワイオミング州の土地40エーカーを購入しており、ワイオミング州でDAOとして登記されたことも話題となりました。
コメント